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2026年5月21日東京大学 本郷キャンパス(東京)
Journal Club
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Journal Club: 魚の群れの臨界性仮説

ラボでの論文紹介の担当でした。選んだのはこの論文[1]。

紹介した論文[1]。
紹介した論文[1]。

今年の秋ごろから滞在予定の Guy Theraulaz のグループから最近出た論文で、臨界性仮説(criticality hypothesis)に魚の室内実験から迫っています。備忘録の意味も込めてまとめておきます。

臨界性仮説とは、生物が可塑性・応答性と頑健性の両方を獲得するために臨界面にいるとする仮説です。相空間上で相を分ける面のことを臨界面と呼んでいて、たとえば水の例だと、固体液体を分ける温度 0℃ が臨界点(1次元上の境界なので点)となります。臨界面では臨界現象と呼ばれる特異的な現象が起きることが知られていて、これを生物が利用していると考えられています。生物の臨界性については Miguel A. Muñoz のレビュー論文[2]がよくまとまっています。

臨界点(critical point)と臨界線(critical line)。
臨界点(critical point)と臨界線(critical line)。

たとえば、群れの中での速度相関がべき則に従う、つまり長距離相関が出ることがあります。べき則は特徴的な長さスケールを持たないので、たとえば群れの大きさが大きくなると速度相関が伸びて、スケールフリー相関(scale-free correlation)と呼ばれています。ムクドリの群れ[3]やユスリカの群れ[4]で報告されています。

これまで臨界性仮説の検証研究のほとんどは、スケールフリー相関のように、臨界現象にみられる特徴を実際の生物から示すという手法でした。一方で、これらの特徴が本当に臨界性由来なのかは不明瞭です。

今回紹介した論文[1]では、魚の群れのデータ駆動モデルを使って相図をかき、実際の魚の群れ状態が相図上で臨界線上に位置していることを示しています。もっと具体的には、環境光のオンオフによって魚に光ストレスを与え、

  • 平常時は臨界状態ではないが、光ストレス下では臨界状態になる
  • 群れサイズが小さい(10匹程度)の場合では、望ましい群れサイズに達していないこと自体がストレスとなり、光ストレスの有無に関わらず常に臨界線上にいる

ということを報告しています。

実験に使われた rummy-nose tetra。[Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Rummy-nose_tetra) より。
実験に使われた rummy-nose tetra。Wikipedia より。

論文の中で気になったこともメモとして残しておきます。

  • 臨界線が正しく引かれているか怪しいです。Fig5, 6 での臨界線の引き方として、秩序パラメータゆらぎの局所最大を用いたと論文には書いてあり、縦方向に切った時には局所最大に対応しているように見えますが、横方向に切った時には局所最大になっていないように見えます。実際には Hessian を計算して、尾根線を見つけてくる必要があるはず。
  • 揺動散逸関係から、秩序ゆらぎ最大=応答最大としていますが、不明です。一応論文の中では彼らの別の論文[5]を引いていて、そこでは彼らが用いた coast-and-burst model で揺動散逸関係を示しているようですが、大学が購読していない関係で読めず……。

また、臨界性仮説に関しても、きちんとは理解できていません。ふつうの統計物理で臨界性を議論するときは、十分な統計性から相境界がくっきりしており、あるところまでは ϕ=0\phi=0、あるところからは ϕ>0\phi>0 とできます。一方で、動物の群れの場合は群れサイズの有限性からそんなにはっきりと相境界が出ません。そのような状況での臨界現象について、上杉はよくわかっていないので、何か知っている人がいたら教えて欲しいです。

とはいえ、臨界性仮説は生物のいろいろなものを説明しうる面白い仮説だと思っています。これからの展開が楽しみです。あとは、フランス滞在中は、この論文で使われている魚やモデルで研究をするはずなので、それもまた楽しみ。そんな論文紹介でした。

参考文献

[1] G. Lin, R. Escobedo, X. Li, T. Xue, Z. Han, C. Sire, V. Guttal and G. Theraulaz, “Experimental Evidence of Stress-Induced Critical State in Schooling Fish”, PRX Life 3, 033018 (2025). https://doi.org/10.1103/nr7p-m4ff

[2] M. A. Muñoz, “Colloquium: Criticality and dynamical scaling in living systems”, Rev. Mod. Phys. 90, 031001 (2018). https://doi.org/10.1103/RevModPhys.90.031001

[3] W. Bialek, A. Cavagna, I. Giardina, T. Mora, O. Pohl, E. Silvestri, M. Viale and A. M. Walczak, “Social interactions dominate speed control in poising natural flocks near criticality”, PNAS 111, 7212–7217 (2014). https://doi.org/10.1073/pnas.1324045111

[4] A. Attanasi, “Finite-Size Scaling as a Way to Probe Near-Criticality in Natural Swarms”, Phys. Rev. Lett. 113, 238102 (2014). https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.113.238102

[5] D. S. Calovi, U. Lopez, P. Schuhmacher, H. Chaté, C. Sire and G. Theraulaz, “Collective response to perturbations in a data-driven fish school model”, J. R. Soc. Interface 12, 20141362 (2015). https://doi.org/10.1098/rsif.2014.1362

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