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2026年1月5日東京大学本郷キャンパス(東京)
Journal Club

アクティブマターレビュー論文輪読会

東大の理学部物理学科では、学部3年次に「物理学ゼミナール」という講義があり、学生が少人数グループに分かれて論文輪読などを行います。今年度の物理学ゼミナールは(指導教員である)竹内さんも担当しており、良い機会だったので私も参加させてもらいました。竹内さん、上杉、B3 の2人でアクティブマターに関する最近のレビュー論文[1]の輪読会を行いました。

読んだレビュー論文[1]。
読んだレビュー論文[1]。

1章 Polar Flocks と2章 Active Nematics では理論的な内容を中心にアクティブマターの基本概念を学びました。3章から8章にはより具体的な系について実験例を交えながら紹介されています(3章〜6章を読みました)。上杉は4章 Motion of Microorganisms を担当しました。

全体的に具体例が羅列されている印象があり、俯瞰的に把握するのが難しい構成でしたが、一方で豊富な具体例が紹介されているので、興味のある系についてさらに深掘りする際の出発点としては良いレビュー論文だと感じました。以下、印象的だった内容をいくつか挙げておきます。

  • run-and-tumble はべん毛フィラメント形状変化で実現されている:原核生物にみられる run-and-tumble 運動は、べん毛の回転方向の切り替えによって実現されているが、これは回転方向に応じてべん毛フィラメントの形状が変化するという物理的な仕組みに基づいている。べん毛フィラメントは11本の protofilament が円筒状に集合してできているが、protofilament には L 型と R 型(左巻きと右巻き)の2種類があり、これらはわずかに異なる長さをもつ。べん毛モーターが回転方向を切り替えると、protofilament の L 型と R 型の比率が変化し、その結果としてべん毛フィラメントは異なる形状をとる。[4.1 Prokaryotic Flagella]
  • クラミドモナスの鞭毛同期:クラミドモナスの2本の鞭毛は流体相互作用を介して同期することがわかっており[2]、鞭毛を1本のみ持つ変異体を2つ近接させた実験によっても確認されている[3]。[4.3 Synchronization]
  • Quorum sensing:バクテリアはシグナル化学物質を生成・検知することで周辺他個体と化学的コミュニケーションを行う。具体的には、化学物質濃度によって周囲の個体数密度を推定し、ある閾値を超えると集団として一斉に行動を変化させる。この仕組みによってバクテリアは凝集などの集団行動を実現している。[4.4 Bacterial Suspensions]
  • 単種バイオフィルム内での分担・協力:1種のバクテリアから構成されるバイオフィルムであっても、外部栄養にアクセスしやすいが外部脅威に弱い外縁部バクテリアと、飢餓状態だが外部脅威に強い内部バクテリアで役割が分担されており、外縁部バクテリアが死ぬと内部バクテリアが成長し外縁部を補充する。また、外部脅威のない環境では、内部バクテリアの大量餓死を防ぐために外縁部バクテリアが周期的に成長を停止して栄養を内部に回す協力行動も観察されている[4]。[4.7 Biofilms]
  • 参考文献

    [1] L. Pismen, "Active Matter Within and Around Us: From Self-Propelled Particles to Flocks and Living Forms" Springer Cham (2021). https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-030-68421-1

    [2] B. Friedrich, "Hydrodynamic synchronization of flagellar oscillators", Eur. Phys. J. Spec. Top. 225, 2353 (2016).

    [3] D. R. Brumley, K. Y. Wan, M. Polin, and R. E. Goldstein, "Flagellar synchronization through direct hydrodynamic interactions", eLife 3, e02750 (2014).

    [4] J. Liu, A. Prindle, J. Humphries, M. Gabalda-Sagarra, M. Asally, D. D. Lee, S. Ly, J. Garcia-Ojalvo, and G. M. Süel, "Metabolic co-dependence gives rise to collective oscillations within biofilms", Nature 523, 550 (2015).